涼宮ハルヒの謀殺

おれは頭を抱えていた。涼宮ハルヒがまたとんでもないことを言い出したのだ。

「いい!? 1953年3月5日、ヨシフ・スターリンは自然死などではなく、誰かに謀殺されたのよ! きっとそうに違いないわ! 我々SOS団の力を結集して、スターリンを殺した真犯人をあばきだすのよ! ちゃんと聞いてる、キョン!」

やれやれとおれはため息をついた。
ガチホモの小泉がおれの股間をねっとりと凝視しつつ、「それは面白そうでね、涼宮さん」
と、いつものさわやかな笑顔を浮かべた。(ちなみにおれは古泉に以前体育館裏で無理やりレイプされかかっていらい、護身用にバタフライナイフを所持している」

「ミクル、あたたもちゃんと話聞いてた!?」

ハルヒが怒鳴りつけると部室の片隅にいたミクルはひっと身体を硬直させ、次の瞬間ガタガタ震えながらその場で失禁し始めた。彼女の尿が椅子を伝わり床に広がる。

「汚いわね、ちゃんと掃除しときなさいよ」

ハルヒは両腕を組みながら冷たい視線をミクルに向けた。
無理もない、ミクルは重度のPTSDにおちいっていて学校に来るのもやっとの状態だった。精神崩壊一歩手前といってもよかった。
原因は先週のSOS団の活動にある。ハルヒいわく、
「千葉のヤンキーはCIAの外部組織か?」
というわけのわからないものだったが、とりあえず我々は深夜集会するヤンキー連中の偵察におもむいたのだが、集会への潜入途中で見つかってしまい皆で逃げ出すという結果におちいり、その際運悪くミクル一人がその場に転んでヤンキーに捕まってしまったのだ。

翌日、ミクルは解放された。ボロボロの制服で、視線をあらぬ方向に走らせながら、ふらふらと歩いてくる彼女。
ミクルは、30人近くのヤンキーに一晩で輪姦されたらしい。
精神が崩壊するのももっともである。しかしそのことを、ハルヒはこれっぽちの罪悪感も同情も抱かず、けろりとしている。

スターリンを暗殺したのはジューコフ将軍。トハチェフスキーのにのまいを怖れたから」

窓際の椅子に座って一人黙って『サムライ戦車隊長』を読んでいた長門が、ポツリとつぶやいた。しかしあいかわらず、読書傾向の良くわからない女だ。

「えーい、ともかく部室にこもっていても世界の不思議は解決しないわ! とりあえずロシア大使館に突撃よ!」

ばん、と両手でつくえをたたくハルヒの瞳はキラキラと無垢な子供のように輝いていた。

また一騒動起こるのか。やれやれと、ため息とともにおれは頭を振った。
涼宮ハルヒの謀殺・完)