鬱々
飲み会に強制参加させられる。
アルコールを摂取すると、脳内のセロトニンが減少しある種の鬱状態に陥ると聞いたことがある。
今の私の状態が多分それだろう。
「あの森は伐り倒されて、今じゃ養馬場になってるけれど…… もうちょっとのところでうまくいかなかったのよ、イグナーチッチ。 ドイツとの戦がはじまっちまってね、ファジェイは兵隊にとられちまったのさ」 マトリョーナはそうぽつんと言ったが、私の眼の前にはたちまち青と白と黄の 1914年7月の光景が浮びあがった。まだ平和だった空、流れる白雲、実った麦の穫り入れに 忙しそうな人びと。私は二人の姿を心の中に思い描いた。肩から大鎌をかけた、色の黒い大男と、 麦の束をかかえた頬の赤い乙女を。それから歌を、青空のもとでの歌を、機械化された最近では 決して歌わなくなったあの歌を。 ソルジェニーツィン『マトリョーナの家』