職安

職安の就職窓口相談員のおばはんから、――具体的にどんな仕事に就きたいんですか?
と聞かれたので、
社会福祉公社に入ってパツキン美少女の義体担当官になりたいです。あと、拳銃バンバン撃ちたい。フロイト的な意味で」と答えたら、
――そんな仕事あるわけないでしょ、と冷たい返事。
自由惑星同盟軍の提督とかでもいいです。宇宙艦隊の運用については少々前職での経験がありますので。あと、大学時代に取ったシスアドの資格もイゼルローン攻略に役に立つと思います」
――そんな仕事あるわけないでしょ、と冷たい返事。
ネゴシエーターになって世界中を股にかけ、プロフェッショナルな交渉術でテロ集団や国家権力と渡り合うというのは? 現地の売春婦とすぐに仲良くなる事に関しては、けっこう自信あります、個人的に」
――そんな仕事あるわけないでしょ、と冷たい返事。
「じゃあ、もっと堅実なところで、ホルマリン漬けの死体管理の仕事とか。大江健三郎の短編のアレみたいなやつ」
――そんな仕事あるわけないでしょ、と冷たい返事。
上野駅のガード下にゴザ敷いて、白い服着てアコーディオンで『異国の丘』とか演奏して、空き缶にお金を投げてもらうのとかはどうですかね?」
――いい加減まじめな話をして下さい、と、マジギレ寸前の職安のおばはん。
「すいません、調子のってました。……ぶっちゃけ本気で狙ってるのは、この前開設されたアルジャジーラ東京支局への就職なんですが。なんと言ってもマスコミ系だし。ギャルにモテそうだし。いうなれば、ポンギのデルモとシーメでケツカッチン?」
――……その前に、アラビア語とか、しゃべれるの?
「いいえ。英検準2級しか持ってないです。でも、昔の人が言ったじゃないですか。『なせばなる なさねばならぬ 何事も ナセルはアラブの墓の下』って」
 そうして右手の親指と中指をパチンとかっこよく弾いてニヤリと相手を見やれば、怒りに全身をぶるぶる震わせカウンター越しに今にもこちらへつかみかかってきそうな職安相談員のおばはんが。鬼のような形相をしていて。


……という恐ろしい予知夢を明けがた視たので、今日もアパートに引きこもって一人ひざを抱えいつものようにぼんやり暮らしましたとさ。おしまい。