板橋純情商店街

結果した肺尖(はいせん)カタルや神経衰弱がいけないのではない。ただ我有りという事実だけが悪かったのだ。
といった具合に今日もきょうとてぶつぶつ意味のない事をひとりごちながら板橋商店街の通りを歩いていたら、ふと、
『少女ノンセクトラジカル』というタイトルの同人eroノベルゲームを今度の冬コミで発表し大ヒットし俺も第二の竜騎士07先生を目指そう、
そいつはいいや、Fuckより最高だぜ真夜中のカウボーイさんよ、と、ブラック・ラグーンの台詞回しをちょっと実生活で真似してみて
そんなハードボイルドな自分に失笑を押さえきれずクククと笑いながら中華料理屋の引き戸を開け店内に入り昼飯にチャーハンを頼む。
席でボロボロになった一ヶ月前のヤンマガを読みつつ料理が出てくるのを待っていたのだが、ふと、店の奥の壁に、『商売繁盛』と
かなりの達筆でもって書かれた色紙が一枚飾ってあるのに私は気づき、ちょうどそばにいた中国人の若い女性店員に対し、
「あの書はひょっとして、近代中国の国父であるところの孫中山先生(孫文のこと)が揮毫された貴重な色紙じゃあないのかね?」
と尋ねたところ、かわいいクーニャンは私の空になったコップに冷水を注ぎながら少し困ったような顔で、ただひとこと、
「アイドントノウ」とかなりブロークンな福建省なまりの英語で答えると店の奥に行ってしまった。


チャーハンを食しアパートに戻り、これといってすることもないので万年床の上であぐらをかいてぼんやりと白痴のような目でもって
なんとなく本棚を眺めていたら、そこにあった山名沢湖のマンガの背表紙のタイトル、『委員長お手をどうぞ 1 (アクションコミックス)』が、『党中央委員長お手をどうぞ
という風にどうしても見えてしまい、ああとうとう梅毒が脳に回ってきたかわしゃもうダメかもしれんのうと布団に寝転がり、
マルイの電動ガンM14ライフル(愛称シャーリー13歳)を抱き寄せそのファイバーストック製の銃身を執拗に手で愛撫しつつ、
トロツキーの唱えた永久革命論のロマンチシズムにぼんやりと思いをはせたりなどしていたらいつのまにか午睡のまどろみに捕らわれ、
内戦で対人地雷が埋設され今は周囲を鉄条網で封鎖されたその地雷原の美しいお花畑の中にそっと忍び込んで器用な手先で花輪を編み上げそれを頭に戴き
長いスカートのすそを吹きわたる風に揺らめかせながら私に向かってにっこり微笑みかけてくるどこか東欧あたりの異国の少女の姿を幻視しながらやがて
眠りに落ちていく自分の意識の混濁がひどく気持ちの良い昼下がりだった。