中秋の名月
今日は「中秋の名月」。(旧暦8月15日)
いま窓の外を見たら、非常に美しい満月が夜空に輝いていた。
ロシアの東洋言語学者、ニコライ・ネフスキー(1892年―1937年)の名著、
『月と不死』をふと思い出す。
柳田國男、折口信夫、金田一京助らとも親交があったこのロシア人の学者、ネフスキーは、
シベリア鉄道で日本に来る途中、停車した夜の駅のプラットフォーム、偶然出会った日本人から、
「日本人は月を見て歌を詠むんですよ、ひじょうに悲しいね」
といった意味のことを言われ、
「こういう情感はロシア人にはない」
と驚かされた、と、そんな内容の文章を『月と不死』の冒頭に書き記している。
確かに、我々日本人が月に抱く想い、そこには多分に「悲劇性への予感」とでも言ったものが
しばしば込められているように私には思えてならない。
日本人が夜空の月を見上げる時、感じるのは、決して喜びとか云った種類のものではなく、
そこにあるのは、非常に物悲しい感情――ある種の憂愁とでも形容すべきもの――そんな想いに我々は、
捕らわれるのではないだろうか。
ニコライ・ネフスキーはスターリンによる粛清下、日本のスパイという汚名を着せられ、
北海道出身の妻イソとともに1937年に銃殺された。
ソ連において彼の名誉回復がなされたのは、死後、数十年たってからの事である。
※ネフスキー略歴