妖精の少女

妖精の少女は恥ずかしがり屋だった。


だから、前線に進出してきた我々の機甲連隊の本部宿営地がその花畑に展開されると、妖精の彼女は顔を真っ赤にして走り出し足下の白詰草の花弁を揺らしてどこかへ行って姿を隠してしまった。


恥ずかしがり屋の妖精がいなくなってしまった宵闇の寂しげな花畑、その灯火管制下の本部において、連隊長は我々につぶやいた。


「残念ながら、制空権は完全に敵の手に握られている」


確かに、それは残念なことであろう。可憐な妖精が立ち去ってしまったのと、同じぐらい。