湊谷夢吉
『蒼ざめた皇女を視たり』 (湊谷夢吉作品集1(アスペクト社) 所収)
日本軍のシベリア出兵に従軍した報道班員が、前線からの撤退の途中偶然立ち寄った「ニコライ奇術師博物館」、そこの門番の老人から聞かされる「ロシア革命異聞」――。その話には、ボルシェビキの虐殺から逃れた皇女アナスタシアを始め、日本軍特務機関、ラスプーチン、ドイツ空中艦隊、モーゼの水石など、まさにその手の「近代史ファンタジー」とでも言ったものに惹かれる人種には非常に魅力的な各種のタームが登場してくる。
夢野久作の小説『死後の恋』と、宮崎駿の『天空の城ラピュタ』の影響の大きさが本作にはうかがえるが、この漫画には「パクリ」ではなく、まさに換骨奪胎という言葉こそがふさわしい。
最後のシーン、撤退する日本兵を載せた列車の汽笛がシベリアの大地に響きわたるその哀感は、読む者に過ぎた歴史への郷愁のようなものを抱かせて……。
天才・湊谷夢吉には、もっと多くの作品を残して欲しかった。