「涙」

「涙」     石原吉郎


レストランの片隅で
ひっそりとひとりで
食事をしていると
ふいにわけもなく
涙があふれることがある
なぜあふれるのか
たぶん食べるそのことが
むなしいのだ
なぜ「私が」食べなければ
いけないのか
その理由が ふいに
私にわからなくなるのだ
分からないという
ただそのことのために
涙がふいにあふれるのだ