長い旅

「生きていれば人生いつか良いこと楽しいことが待っているわよ」
 深夜0時過ぎのひとけの途絶えたJR東京駅ホームの上で、少女はくるりとスカートを回転させてこちらを振り返り微笑んだ。
「……本当かなあ?」
 おずおずと、僕は冬の大気の中に白い吐息をもらしてうつむく。
「とりあえず、おたがい、死ぬまでは生きてみましょうよ、ね?」
 革製の大きな旅行鞄の上に腰をおろしながら、クスリと笑う少女。そうして彼女は言う。
「旅はこれから始まるのだから」

 無人のプラットフォームに、寝台夜行列車が静かに滑り込んできた。
 僕と彼女は、この列車に乗ってこれから長い旅に出るのだ。
 手元の切符には、こう書かれている。
 『東京発――満州里経由――モスコー行特別列車』

「きっとシアワセになれるわよ、私たち」
 そう楽しげに声を出した少女はもうすでに列車の乗降口の手すりに腕を巻き付けて車内へと乗り込もうとしていた。
 ――ああ、遅れてはいけない。
 僕もボクの旅行鞄をつかんで、少女のあとを追った。